矯正治療での抜歯
2021年9月9日
こんにちは
矯正治療では、歯並びをきれいに整えるために抜歯をすることがあるのをご存知ですか?
これは当院でも同じで、残念ながら抜歯しなければ歯をきれいに収められないこともあります。
歯並びをきれいにするために矯正治療を受けているはずなのに、どうして歯を抜く必要があるのでしょうか。
また、抜く歯はどのようにして選んでいるのでしょうか。
今回は、矯正治療での抜歯についてお話ししますね。
■矯正治療での抜歯の目的
矯正治療で抜歯をする目的は、
- 歯の大きさと歯を並べる顎の骨のバランスをとること
歯を並べようとしても、顎のサイズの方が小さいときれいに並べることはできません。抜歯をして歯を減らすことで、歯を並べるスペースを確保しようというわけです。 - 正常な上顎と下顎の歯の噛み合わせを得ること
歯がきれいに並べば、噛み合わせも良くなりますから、こちらもわかっていただきやすいでしょう。 - 理想的な顔かたちを得ること
意外に思われるかもしれませんが、歯並びは顔つきに大きく影響しています。歯並びがきれいに整えられると、顔つきも良い方向に変わっていきます。抜歯を行うことで、歯並びを少しでも理想的な状態に近づけ、顔つきも同時に整えようということです。
です。
■矯正治療で抜歯をすることで得られるメリット
では、抜歯して矯正治療を行うとどのようなメリットが得られるのでしょうか。
○歯のスペースが確保できる
まだ生えてきていない歯が生えてきやすくするほか、歯をきれいに並べるために移動させるスペースの余裕を得ることができます。
この結果、歯並びの形だけでなく、噛み合わせるという機能面においても、矯正治療の成功の可能性が高まります。
○矯正治療後の安定性
ギリギリで歯を並べると、矯正治療が終わったのち、再び歯並びが悪くなってしまうリスクが高まります。
抜歯して、余裕を持って歯並びを整えると、そうしたリスクを下げ、矯正治療後歯並びがより長期にわたって安定できるようになります。
○病的なファクターをなくせる
例えば、一度虫歯や歯周病になった歯は、いったん落ち着いても、再び症状が現れることも珍しくありません。
矯正治療のためとはいえ、虫歯や歯周病になっている歯、もしくはなっていた歯を抜歯すると、矯正治療中、あるいは矯正治療を終えたのちに虫歯や歯周病が再発するリスクをなくすことができます。
病的なファクターとしては、虫歯や歯周病以外に、外傷で歯根がダメージを負った歯や、過剰歯という余分な歯や、親知らずなどの埋もれたままの歯などもあります。
■矯正治療の抜歯に伴うデメリット
矯正治療にはメリットだけでなく、デメリットもあります。
○歯並びの連続性がなくなる
例えば、前歯の隣に大臼歯という大きな親知らずがあると、形の違いがあまりにも大きすぎます。
歯並びは、そんなことなく、前歯から奥歯にかけて、少しずつ変化しながら、スムーズに並んでいます。
歯並びをきれいにするためとはいえ、歯を抜きますと、スムーズな歯の流れが失われてしまいます。
○お口の容積が狭くなる
お口の容積は、歯並びの内側の容積ともいえます。
歯がなくなると、その分お口の中の容積が小さくなってしまいます。
○噛み合わせの安定性が悪化することがある
歯並びの状態によっては、歯を抜きますと噛み合わせの安定が難しくなってしまうこともあります。
○歯の移動距離が長くなる
抜歯したスペースを埋めるために歯を移動させるのですが、抜いたところを埋めるための移動距離はとても長くなります。
歯の移動距離が長くなると、それだけ歯を支える歯周組織や移動した歯の根そのものへの影響も大きくなります。
○前歯の重なりが深くなりやすい
上顎と下顎の前歯は、少し重なり合う程度が理想的です。
もし、上顎の前歯に下顎の前歯が隠れてしまうようでは、重なり合いが深くなりすぎということになります。
抜歯をして歯並びを整えようとするとそのリスクが高くなります。
■適した歯を抜歯しなかったら
実は、歯並びをきれいにするためなら、どの歯を抜いてもいいというわけではありません。
歯並びをきれいにするために犠牲になってもらう歯は、正しく選ぶ必要があります。
もし、適した歯以外の歯を抜歯すると、以下のようなリスクが生じます。
○隙間が残ることによる見た目の悪化
一番わかっていただきやすいリスクがこれですね。
抜歯した歯が大きすぎるなどの理由で、残った歯を動かしてもきちんと隙間を埋められなかった場合、歯並びに隙間が残ってしまいます。
隙間が残った歯並びになってしまい、治療後の見た目があまりきれいにならなくなってしまいます。
○隣の歯の傾斜
抜歯して歯並びを整え、矯正治療を終えたとします。
そのとき先ほどの例にあったように抜歯した後の隙間が残っていると、その隙間に対して、隣の歯が傾きながら寄ってきます。
隣の歯が隙間に向かって傾くと、隙間の隣の歯とその隣の歯との間にも隙間ができてしまいますから、同じように後ろの歯が寄ってきます。
そうです、隙間が残ったままになっていると、隙間の見た目だけでなく、歯並び自体も再び悪くなってしまいます。
○噛み合わせの悪化
隙間があると、その分上顎と下顎の歯が適切に噛み合わせられなくなります。
すなわち、噛み合わせがかえって悪くなってしまうリスクも生まれます。
○前歯の傾き
上顎、下顎の前歯が後ろに向かって引かれることで、内側に向かって傾くことがあります。
○大臼歯の前方への移動
抜歯をしたのちに隙間が残ってしまった状態が続くと、大臼歯という奥歯が前に向かってずれてしまうこともあります。
■抜歯すべき歯の選び方
矯正治療を行うためにどの歯を抜歯するのか、その歯はどのようにして選ぶのでしょうか。
○必要なスペースが得られる大きさの歯であること
矯正治療で抜歯する第一の理由は、歯並びをきれいに整えるためのスペースを得ることです。
もし、抜歯して得られたスペースだけでは歯をきれいに収めきれないようでは、なんのために抜歯したのかわかりません。
しかも、抜歯して得られたスペースの4分の1は、どれほど隣の歯をしっかりと止めていても近づいてきて塞いでしまうと言われていますので、この4分の1を見越しただけのサイズを選ぶ必要があります。
矯正治療で抜く歯を選ぶときには、その歯のサイズが必要なスペースを余裕をもって満たすことができるかどうか、これが1番の条件といえます。
○抜歯後の歯の移動が容易であること
いくら、抜歯した歯の大きさが必要なスペースと照らし合わせて適切だったとしても、抜歯して得られたスペースが歯を移動させにくい場所にあっては矯正治療はスムーズに進みません。
抜歯したのちに進められる矯正治療が、順調に進められるような位置にある歯を選ぶことも大切です。
○隣の歯に悪影響を及ぼさないこと
抜歯する歯の隣に生えている歯は、もちろん残すのが大前提です。
しかし、抜歯する歯を支えている骨の状態、抜歯する歯と隣の歯との位置関係などにより、抜歯した場合に、何らかの悪影響が残そうとしている隣の歯におよびそうな場合は、その歯を抜歯するのは避けなければなりません。
改めて、隣の歯に影響しないような歯を選ぶ必要があります。
○見た目に影響しないこと
仮に、前歯を抜いたとします。
前歯は、外観に大きく影響する歯です。
前歯の大きさがたとえ、必要なスペースとマッチしていたとしても、隣の歯に悪影響を及ぼさない歯であったとしても、前歯がなくなってしまうと、治療後の外観に影響が出るのは避けられません。
理想的な顔つきにすることも矯正治療の目的のひとつですから、見た目に影響するような歯を抜歯してはなりません。
○歯並びの持つ機能に影響しないこと
歯には、見た目だけではなく、食べ物を噛む、言葉をはっきり発音できるようにするなどの機能的な役割があります。
適当に歯を抜いてしまった結果、歯固有の機能が損なわれてしまうようでは、矯正治療の意味がなくなってしまいます。
矯正治療が終わったのち、機能的な面で悪化が生じないような歯を選ばなければなりません。
○左右両方を抜くこと
もし、右側の歯だけ、左側の歯だけ抜くとなると、歯並びのバランスが狂ってしまいます。
その結果、上顎と下顎の歯並びの真ん中が合わなくなってしまうばかりか、歯並び自体が体の中心線からずれてしまうことにもなります。
見た目が悪くなってしまうだけでなく、歯並びの対称性もなくなってしまいます。
抜歯する場合は、右も左も均等になるように抜歯する歯を、かつ原則的には同じ名前の歯を選ばなければなりません。
○予後の悪い歯を優先
例えば、第一小臼歯という前から4番目の歯と第二小臼歯という前から5番目の歯の形はとてもよく似ています。
抜歯する歯をどちらにしようかと迷うことも珍しくありません。
そんなとき、いずれかの歯が、欠けたり割れたりしている、深い虫歯になっている、根の先に膿の袋ができているような場合は、健康な歯の方ではなく、そちらを選ぶようにします。
■第一小臼歯が多い理由
実際の矯正治療の現場では、歯並びの状態や骨格の状態はみなさん異なりますから、一律にどの歯を抜くのが適していると決まっているわけではありません。
先ほどお話ししたように、抜く歯を選ぶにはいろいろな条件を考えて、慎重に選ぶ必要があります。
けれども、一般的に多いのは、第一小臼歯です。
第一小臼歯がよく選ばれるのには理由があります。
○前歯の歯並びを整えるのに有利
第一小臼歯は、前歯部に近い、つまり前歯を移動させやすい位置にあります。
そのため、前歯の乱杭歯や上顎前突、下顎前突などの治療にも十分対応できます。
○奥歯の歯並びを整えるのにも有利
奥歯の歯並びを整えるにも、移動させやすい位置にあるため、奥歯の矯正治療にも利用しやすいです。
○噛み合わせの安定性にも有利
下顎の歯の幅を全て足した数値を上顎のそれで割ったものをオーバーオールレイシオと言います。
第一小臼歯なら4本抜歯しても、オーバーオールレイシオがそれほど変わらないため、奥歯の噛み合わせを安定させやすいです。
○機能上の問題も少ない
第一小臼歯は、元々それほど噛み合わせの力が大きくないので、抜歯しても噛み合わせの力という機能的な点でのマイナスがほとんどありません。